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献茶婦とは葬儀・法事等を手伝う専門職です
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N区現場、 あるマンションの集会所にて。
宗派は・・・浄土真宗
おねえさんはMさん。


小雨の降る寒い日だった。

外現場では
スタッフはほとんどの時間を戸外で過ごす。

冬生まれだけど 寒さが苦手な私は
背中のあらゆる場所と 靴の中に
使い捨てカイロを仕込んでいた。


こんな寒さだと 抵抗力が落ちるから
感染症に気をつけねば・・・なのだが
故人さまの奥様が
インフルエンザに罹患していた。



その状態で
人の集まる式場に出向くわけにはいかない。
だけど 会館で式をすると
奥様は まったく蚊帳の外。
「せめて家のベランダから出棺を見送りたい」 という
奥様の希望で
住居の集会所での式が決まったという。
喪主は 長男さまが。


集会室はスペースに余裕がないので
お寺さまの控室は ご自宅の一室に。
こんなことはよくある。


こういう場合、 お寺さんのお茶を用意するために
台所を借りることになる。


人様の台所というのは ある意味ミステリィで
想像で戸棚を開けたりすると
パンドラの箱を開けてしまうことになりかねず、
何のために 何を使わせて欲しいか、 ということを
最初に 事細かに説明し、
必要なものが どこにあって
どう操作するのかを きちんと聞くのが
一番の早道となる。


休んでいなきゃいけない奥様なのだが
そんなこんなで 言葉をいくらか交わすことに。

やはり
こんなタイミングでインフルエンザに罹患したことを
奥様は 自分で責めていた。
「最後まで送るのが私の役目と結婚した時から思っていたのに」と。

最後のお別れだけでも なさいますか、 と声をかけたが
高齢の親族もいるからね、 と
涙ぐんで御辞退された。



式が終わり出棺のあと
伝票を持った料理屋さんを連れて ご自宅に行った。


鍵のかかっていない玄関をあけると
強風が抜けた。
ベランダに通じるサッシが開いている・・・


想像通り、 奥様は外にいらっしゃった。
そして、
今までに何度も耳にしてきた
悲しい悲しい声が聞こえてきた。


お身体に障りますよ、 と声をかけると
すっと中に入られた。

嗚咽は続く。



完璧な人間はいない。
そして 完璧な見送り方だってない。
彼女はきっと できることをすべてやったはず。


しかるべき片付けを終え
言葉少なく挨拶をし 私はその場を立ち去った。

人の悲しみに触れる機会は
きっと人より多いはずなのに
悲しんでいる人に かける言葉がみつかったことはない。
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にわ晃子(acco)
性別:
非公開
職業:
献茶婦
自己紹介:
阪神間で動き回っています。
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